■ホスピタリティの起源と本来の意味
ホスピタリティの起源は、
ヨーロッパの古代、まだホテルや病院が存在しなかった時代にさかのぼります。
当時、旅人や病人を受け入れていたのは、教会や修道院でした。
そこでは金銭的な対価を目的とせず、
「困っている人を見たら、自然と手を差し伸べる」という精神が
当たり前の価値観として大切にされていました。
この思想は「異人歓待(いじんかんたい)」と呼ばれ、立場や関係性を超えて相手を受け入れ、
尊重し、安心できる場をつくることがホスピタリティの原点となっています。
日本においても、寺院や地域社会が同様の役割を担い、「和」を重んじる文化と結びつくことで、
日本独自のホスピタリティが育まれてきました。
つまりホスピタリティとは、単なる“気遣い”や“サービス精神”ではありません。
相手を一人の人間として尊重し、相手の立場や状況、感情を想像しながら、
自分はどう関わるべきかを判断し、行動するための思考の土台。
それこそが、ホスピタリティの本質です。
そして今、このホスピタリティの考え方は、接客の現場にとどまらず、
組織づくりやマネジメント、働き方そのものへとその役割を大きく広げています。
それでは、2026年という時代において、
私たちはホスピタリティをどのように仕事に活かしていけばよいのでしょうか。
本コラムでは、2026年版「ホスピタリティを仕事に活かす3つのポイント」として、
1.接客サービスの進化
2.ホスピタリティを組織のOSとするテクノロジー活用
3.マネジメントからリーダーシップへの転換
この3つの視点から、
これからの仕事とホスピタリティの関係を整理していきます。
1.接客サービスの進化
― テクノロジー時代に求められる「高次元の接客」 ―
2026年、接客サービスの現場は大きな転換期を迎えています。
セルフレジ、モバイルオーダー、自動チェックイン。
テクノロジーは「人手不足解消」や「効率化」の手段として導入されてきました。
しかし、ここで一つの課題が生まれています。
人と人が接する機会が減った結果、接客の価値そのものが薄れてしまっているという問題です。
本来、テクノロジーは「人の仕事を奪うもの」ではなく、
人がより価値の高い仕事に集中するための道具であるはずです。
これからの接客サービスに求められるのは、
-
テクノロジーで顧客情報を収集・分析し
-
その情報をもとに
-
人が“目の前のお客様に合わせた”ホスピタリティを提供すること
つまり、効率化の先にある“個別最適な付加価値”の創出です。
機械ができることは機械に任せ、人にしかできない「感じ取る力」「想像する力」「心を動かす関わり」を磨く。
2026年の接客サービスは、より少ない接点で、より深い満足と感動を生み出す
高次元なホスピタリティが求められています。
2.ホスピタリティとテクノロジー
― ホスピタリティは、組織を動かすOSとなる ―
DXやAIの進化は、業務管理や数値管理といった「マネジメント業務」を、
急速にテクノロジーへと移行させています。
スケジュール管理、進捗管理、データ分析。
これらは人が担わなくても、正確に、速く、ミスなく処理できる時代になりました。
それでは、テクノロジーが進化するほど、人は何を担うべきなのでしょうか。
ここで重要になるのが、ホスピタリティという組織のOS(思考と行動の土台)です。
ホスピタリティを組織のOSとして共有することで、メンバー同士、部署間、
さらには経営者と現場の間に、「思いやり」や「相互理解」が生まれます。
それは単なる“人間関係の良さ”ではありません。
お互いを尊重し、安心して意見を出し合える関係性が、組織全体の関係の質を高めていくのです。
関係の質が高まると、次に変わるのが思考の質です。
「指示を待つ」「失敗を避ける」思考から、「自分に何ができるか」「より良い方法は何か」を考える思考へ。
そして、その思考は、自発的で前向きな行動の質へとつながり、結果として、持続的な成果を生み出していきます。
これまで多くの組織では、役割分担と責任の明確化によって成果を導いてきました。
もちろん、それ自体が不要になるわけではありません。
しかし、正解のない時代においては、分業と管理だけでは限界があります。
これから求められるのは、一人ひとりが考え、支え合い、協働によって価値を生み出す「共創型の組織」です。
ホスピタリティをOSとして持つ組織では、立場や役割を超えた協力が生まれ、組織全体が同じ方向を向いて動き出します。
その結果、社員の幸福度と業績を両立させる経営が実現し、離職を防ぎ、生産性を高める好循環が生まれていくのです。
テクノロジーは、この流れを加速させるための“道具”にすぎません。
人の役割とはホスピタリティというOSを軸に、組織の関係性を整え、人と人の力を最大限に引き出すこと。
2026年、ホスピタリティは、テクノロジー時代の組織を動かす中核OSとして、
ますます重要な意味を持つようになるでしょう。
3.マネジメントからリーダーシップへ
― 仕事の「意味」をつくる役割 ―
最後に、リーダーの行動規範がマネジメントからリーダーシップに転換が求められるということです。
マネジメントとは、業務を管理し、ルールを守らせ、成果を出すための仕組みです。
一方、リーダーシップとは、人の心を動かし、主体性と自発性を引き出す力です。
2026年、業務を管理するマネジメントの多くは、テクノロジーが担うようになりました。
だからこそ、これからのリーダーに求められるのは、
-
部下の仕事の「意味」を言語化すること
-
やらされ感ではなく、納得感をつくること
-
勤務時間中に、メンバーの最大出力を引き出すこと
です。
人は、管理されることで力を発揮するのではありません。
自分の仕事に意味と価値を見出したとき、人は自然と動き出します。
ホスピタリティを基盤としたリーダーシップは、部下をコントロールするのではなく、
支援し、信じ、力を引き出す関わりへと導いてくれます。
2026年、ホスピタリティは「あると良いもの」ではなく、人と組織が迷わず進むためのOSになります。
接客サービスの現場でも、テクノロジー活用でも、マネジメント・リーダーシップにおいても、
判断に迷ったとき、立ち返る基準となるのがホスピタリティです。
ホスピタリティを共通言語として持つ組織は、人が生き生きと働き、
結果として高い付加価値と成果を生み出していきます。
2026年、ホスピタリティは「身につけるスキル」ではなく、
人と組織を迷わせないための“思考のOS”になります。
このOSを仕事にインストールできた組織だけが、人を活かし、価値を生み、選ばれ続けていくのです。