■サービス業のDXは、システム導入から始めてはいけない
「DXを進めなければならない」
そう言われて、まず何を思い浮かべるでしょうか。
新しいシステムの導入、アプリの開発、AIの活用——。
けれど私は、サービス業におけるDXは、システムから考え始めた瞬間に失敗する可能性が高まると感じています。
なぜなら、DXの本質は「ITを入れること」ではなく、仕事の意味と、人の役割を再定義することにあるからです。
■DXとIT化は、似て非なるもの
まず整理しておきたいのが、「IT化」と「DX」の違いです。
IT化とは、既存の業務をデジタルの力で効率化・自動化すること。
仕事のやり方自体は変えず、「早く・正確に・楽にする」ことが目的です。
一方、DX(デジタルトランスフォーメーション)は、
デジタル技術を活用して、事業・サービス・組織の在り方そのものを変革し、
新しい価値を生み出し続ける取り組みです。
重要なのは、
「ITやAIを導入したかどうか」ではなく、
それによって、人が何に時間を使えるようになったか。
ここにDXかどうかの判断基準があります。
■サービス業のDXは、段階を踏んで進む
DXは、ある日突然完成するものではありません。
サービス業のDXには、明確な“順番”があります。
そのステップを示したものがこちらです。
STEP1.デジタイゼーション(Digitization)
― 人の時間と「心の余白」を取り戻す段階 ―
デジタイゼーションとは、
紙、口頭、属人的に行ってきた業務をデジタル化し、
効率化・自動化することで、仕事を“整える”段階です。
予約管理、勤怠管理、帳票、マニュアル、議事録、問い合わせ対応など、
これまで人が多くの時間を割いてきた定型業務が代表例でしょう。
ここで重要なのは、
仕事のやり方そのものは変えないという点です。
目的は改革ではなく、土台づくり。
・探す時間
・待つ時間
・書く・転記する時間
・「やらなくてもいいのにやっている仕事」
こうした負荷を減らすことで、
人の時間と、心の余白を取り戻す。
この余白がなければ、どれだけ立派なDX構想を描いても、現場は動きません。
デジタイゼーションは、DXのスタート地点であり、絶対に飛ばせない工程です。
STEP2.デジタライゼーション(Digitalization)
― 価値を生むために、仕事と役割を組み替える段階 ―
次に訪れるのが、デジタライゼーション。
ここからDXは、単なる効率化ではなく、価値創造のフェーズに入ります。
デジタライゼーションとは、
デジタルを前提に、業務プロセス・顧客体験・人の役割を再設計すること。
たとえば、自動チェックイン機を導入しただけでは、DXとは言えません。
・そこで生まれた時間を、何に使うのか
・人は、どこで関わるべきなのか
・お客様は、どんな体験を得るのか
こうした問いに向き合い、
「人がやらなくてよい仕事」と「人がやるべき仕事」を分けていく。
この段階では、
デジタルは主役ではありません。
主役はあくまで「人」と「体験」。
デジタルは、人が人らしい仕事に集中するための“裏方”です。
STEP3.DX(変革が起きている状態)
― 人の価値が最大化され、選ばれ続けるサービスになっている状態 ―
DXとは、システムを導入し、業務効率が上がった「結果」を指す言葉ではありません。
DXのゴールは、人と組織の在り方が変わり、新しい価値が“自然に生まれ続けている状態”です。
具体的に言えば、こんな状態です。
-
デジタルによって、定型業務や待ち時間が減り
-
スタッフが「目の前のお客様」に向き合う時間が増え
-
一人ひとりに合わせた声掛けや提案が生まれ
-
「ありがとう」「あなたで良かった」という言葉が増えていく
-
その積み重ねが、ブランド体験となり、ファンを生み
-
働く人自身も、仕事に誇りと意味を感じている
つまりDXとは、デジタルが目立たなくなり、人の価値だけが際立っている状態
とも言えるでしょう。
効率化がゴールなのではなく、
ホスピタリティが進化し続ける仕組みができていること。
それが、サービス業におけるDXの完成形です。
サービス業のDXとは、デジタルによって仕事を減らすことではなく、
人が、人にしかできない価値を発揮できる状態をつくることなのです。
■システム導入を目的にすると、仕事の”やりがい”は失われる
サービス業のDXで最も注意すべきなのは、
人の役割を再定義しないまま、デジタルを導入してしまうことです。
効率化だけが進み、
お客様から「ありがとう」「あなたで良かった」と言われる場面が減っていく。
これでは、DXは生産性向上どころか、社員のやりがいを奪い、離職を誘発する結果になってしまいます。
実際に、あるホテルでは、自動チェックイン機を導入したところ、業務効率は確かに向上しました。
しかし一方で、フロントでお客様と会話し、表情を見て、
「この方には何をしたら喜んでもらえるだろう」と考えることにやりがいを感じていたスタッフが、
その実感を持てなくなってしまったのです。
「自分の仕事は、機械を見守ることだけなのか」
「私は、誰の役に立っているのだろうか」
そんな声が現場から上がり、結果として、多くのスタッフが職場を去ってしまった——
という事例もありました。
DXそのものが悪いわけではありません。
問題は、人の役割を再定義しないまま、デジタルだけを進めてしまったことにあります。
だからこそ、DXを考えるときには、必ず立ち止まって問い直す必要があります。
・この仕事は、本当に人がやるべきことだろうか?
・デジタルに任せた方が、お客様にとって楽で心地よいのではないか?
・そして、人はどこで“人にしかできない価値”を発揮するべきなのか?
この問いに向き合わないDXは、便利さと引き換えに、
サービス業が最も大切にしてきた「人の誇り」を静かに削っていきます。
■サービス業DXのゴールは、ホスピタリティを高めること
サービス業におけるDXの意味は、
デジタル化を通じて、人の価値を最大化することにあります。
定型業務、手続き、入力作業、待ち時間を生む仕事はデジタルへ。
その分、人は——
想像し、感じ取り、寄り添い、判断し、心を動かす。
これこそが、ホスピタリティであり、
AIには代替できない、人の仕事です。
DXとは、「人を減らすための手段」ではなく、
人が人らしく働くための環境づくりなのです。
■DXは技術の話ではなく、理念の話
どこまでDX化するかに、正解はありません。
その判断を分けるのは、「この会社は、何を大切にしたいのか」という理念です。
サービス業のDXは、
効率化による生産性向上、人手不足を補う手段と考えがちですが、
ホスピタリティを軸にしたとき、初めて意味を持ちます。
DX化を推進する前に、
それはお客様にとってどのような価値があるのか?
それによって働くスタッフの役割はどう変わるのか?
そのことを念頭に進めることが重要です。
ザ・ホスピタリティチーム㈱では、ザ・ホスピタリティチーム㈱では、
「人の価値をどう高めるか」という視点から、サービス業のDX・組織づくり・リーダーシップを支援していますので、
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