■待遇や制度を整えても、なぜ人は動かないのか?
前回のVol.01では、なぜ今、企業経営にホスピタリティが必要なのかについて考えました。
その中でお伝えしたのが、
企業の成果を生み出しているのは、最終的には「人」である。
ということです。
では、その「人」が力を発揮するためには、何が必要なのでしょうか。
給与を上げる。
休日を増やす。
福利厚生を充実させる。
評価制度を整える。
もちろん、どれも大切です。
しかし、企業の方々とお話をしていると、こんな声を耳にすることがあります。
「待遇を改善しているのに、人が辞めてしまう」
「制度を整えているのに、社員がなかなか自ら動いてくれない」
「もっと主体的に仕事をしてほしい」
なぜなのでしょうか。
私はその理由のひとつに、
人は「条件」だけで働いているわけではない
ということがあると考えています。
■お金は、もちろん大切です
内閣府の「国民生活に関する世論調査」では、「働く目的」について、63.5%の人が「お金を得るために働く」と回答しています。
生活をしていくために働く以上、これは当然のことです。
給与も大切です。
待遇も大切です。
休日や福利厚生、働きやすい制度も大切です。
ですから、ここでお伝えしたいのは、
「お金では人は動かない」
ということではありません。
私たちが考えたいのは、
「経済的な条件だけで、人の持つ力を十分に引き出すことができるのだろうか」
ということです。
■人は「条件」だけで会社を離れるわけではない
厚生労働省の「令和5年若年者雇用実態調査」を見ると、初めて勤務した会社を辞めた理由として、
「労働時間・休日・休暇の条件がよくなかった」28.5%に続いて、
「人間関係がよくなかった」26.4%
が挙げられています。
「賃金の条件がよくなかった」は21.8%です。
もちろん、この数字だけを見て、
「給与より人間関係のほうが大切だ」
と結論づけることはできません。
しかし少なくとも、人が働き続けるかどうかは、給与や待遇といった経済的な条件だけでは説明できないことが分かります。
「この人たちと一緒に働きたい」
「自分のことを見てもらえている」
「困ったときには助けてもらえる」
「自分の仕事が誰かの役に立っている」
「ここで成長していきたい」
こうした数字には表れにくいものもまた、人が働くうえで大きな意味を持っているのではないでしょうか。
■人が力を発揮するために必要な「2つの視点」
ここで、企業経営に必要なものを二つの視点から考えてみたいと思います。
一つは、
「経済合理性」
です。
給与、待遇、休日、福利厚生、評価制度、生産性、効率性。
企業を経営し、働く人の生活を支えていくために、これらは欠かすことができません。
しかし、もう一つ大切なものがあります。
それが、
「人と人との関係性」
です。
信頼されている。
認めてもらえている。
必要とされている。
困ったときには支えてもらえる。
「ありがとう」と言ってもらえる。
こうした人と人との関係の中で生まれるものも、人が力を発揮するうえで大きな意味を持っています。
【図① 人が力を発揮するために必要な「2つの視点」】
■人は「何をもらえるか」だけで動くのではない
人のモチベーションについては、これまでさまざまな研究が行われてきました。
その代表的な理論のひとつに、エドワード・デシとリチャード・ライアンらによる「自己決定理論」があります。
自己決定理論では、人が主体的に行動するうえで、
自律性――自分で選び、決めているという感覚
有能感――自分にはできる、成長しているという感覚
関係性――人とつながり、尊重されているという感覚
という3つの基本的な心理的欲求が重要だと考えられています。
近年の職場研究を統合したメタ分析でも、こうした心理的欲求が満たされることや自律的なモチベーションが、
仕事へのエンゲージメント、仕事満足、ウェルビーイング、仕事のパフォーマンスなどと関係することが示されています。
つまり、人は、
「何を与えられるか」だけではなく、「その職場で何を感じられるか」によっても動く。
ということです。
■良い関係性が「貢献したい」を生み出す
ここに、これからの企業経営を考えるうえで大切な視点があると、ザ・ホスピタリティチーム(THT)は考えています。
良い関係性のある職場では、
「この人の役に立ちたい」
「この仲間を助けたい」
「このチームに貢献したい」
という気持ちが生まれます。
THTでは、この気持ちを、
「貢献意識」
と捉えています。
上司から言われたからやる。
評価されるからやる。
給料をもらっているからやる。
もちろん、それも仕事をする理由です。
しかし、
「この人のために、もう少し頑張ろう」
「困っている仲間がいるから、自分にできることをしよう」
「もっとお客様に喜んでいただきたい」
という気持ちから生まれる行動には、指示やルールだけでは生み出せない力があります。
そして、この一人ひとりの貢献意識が、組織の力へとつながっていきます。
■関係性は、経営成果につながっていく
ここで重要なのは、
「人間関係の良い職場をつくること」そのものが目的ではない
ということです。
仲が良い。
雰囲気が良い。
それだけで企業の成果が上がるわけではありません。
大切なのは、
良い関係性から生まれた貢献意識が、実際の行動につながることです。
仲間を助ける。
情報を共有する。
自分から声をかける。
改善を提案する。
お客様のために、もう一歩考える。
こうした行動が増えれば、チームワークや連携が高まり、組織としての力が高まっていきます。
そして、その力は社内だけで終わりません。
働く人に心の余裕があれば、お客様を見ることができます。
仲間から大切にされている人は、お客様にも心を向けることができます。
言われたことをこなすだけではなく、
「どうしたら、もっと喜んでいただけるだろう」
と考えられるようになります。
その積み重ねが、サービス品質や顧客体験、付加価値を高め、やがて企業の成果へとつながっていく。
THTでは、この流れを次のように考えています。
【図② 関係性から経営成果へ】
■ホスピタリティは、経済合理性の反対側にあるものではない
ここは、とても大切なところです。
ホスピタリティを大切にすることは、利益や効率を軽視することではありません。
給与も必要です。
待遇も必要です。
効率も生産性も必要です。
そして企業である以上、利益を生み出し続けなければ、働く人を守ることもできません。
だから、私たちTHTが考えているのは、
「経済合理性か、ホスピタリティか」
ではありません。
経済的な条件を整えることに加えて、
人と人との関係性から生まれる力を、どう組織の力、顧客への価値、そして経営成果へとつなげていくのか。
ここに、これからの企業経営にホスピタリティが必要な理由があると考えています。
給与や制度によって「働く条件」を整える。
そして同時に、
「この仲間と働きたい」
「この人の役に立ちたい」
「このお客様に喜んでいただきたい」
と思える関係性をつくる。
人と人との関係性から生まれる力を、経営の力へ変えていく。
それが、THTが考える、
「ホスピタリティ・マネジメント」
です。
では、その出発点となる、
「良い関係性」
とは、具体的にどのような状態なのでしょうか。
そして、なぜ「関係の質」が変わると、人の思考や行動が変わり、組織の結果まで変わっていくのでしょうか。
次回は、THTホスピタリティ・マネジメントの起点となる、
「関係の質」
について、さらに掘り下げていきます。
THTホスピタリティ・マネジメント シリーズ
Vol.00|THTが考える「ホスピタリティ・マネジメント」とは?
Vol.01|なぜ今、企業経営にホスピタリティが必要なのか
Vol.02|経済合理性だけでは、人が動かない時代になった[この記事]
Vol.03|「関係の質」が組織を変える[次回公開予定]

