「ゆっくり洋服を見たいだけなのに、店員さんが何度も話しかけてきて、結局そのまま店を出てしまった。」
そんな経験はありませんか。
反対に、
「この商品について聞きたいのに、スタッフが誰も近くに来てくれない。」
そんな経験をされた方も少なくないでしょう。
接客の現場では、「積極的に話しかけるべきか」「そっとしておくべきか」は、昔から永遠のテーマです。
しかし実は、この答えには心理学のエビデンスがあります。
■人には二つの「距離感」がある
1987年、社会言語学者ブラウンとレヴィンソンは、「ポライトネス理論」を提唱しました。
この理論では、人には大きく二つの欲求(フェイス)があるとされています。
一つは、
ポジティブフェイス。
「認められたい」
「関わってほしい」
「共感してほしい」
という、人とのつながりを求める欲求です。
一方で、
ネガティブフェイスは、
「干渉されたくない」
「自分のペースで見たい」
「そっとしておいてほしい」
という、自分の自由を守りたい欲求です。
つまり、お客様によって心地よい距離感は違うということです。
■「なんとなく」の判断が機会損失を生む
私は全国で接客研修を行っていますが、ロールプレイングでこんな場面によく出会います。
「なぜ声を掛けなかったのですか?」
と質問すると、
「そっとしておいてほしいと思ったので。」
という答えが返ってくることがあります。
ところが、お客様役の方に聞くと、
「実は聞きたいことがあった。」
「商品について相談したかった。」
というケースが少なくありません。
つまり、スタッフは良かれと思って距離を置いた。
しかし、お客様は「放っておかれた」と感じていたのです。
これは大きな機会損失です。
だからこそ、自分の経験や勘だけで判断することは、とても危険なのです。
■ネガティブフェイスは変わる
私自身、ウェディングプランナーとして働いていた頃、この心理を何度も体験しました。
結婚式場を探し始めたばかりのお客様は、多くの場合、ネガティブフェイスです。
「心を許したら契約を迫られるのではないか。」
そんな警戒心を持って来館される方も少なくありません。
そのため、最初から積極的に営業すると、かえって距離ができてしまいます。
しかし、不思議なことがあります。
趣味の話になったり、
出身地が同じだったり、
好きな音楽が一緒だったり。
そんな共通点が見つかると、一気に表情が変わります。
笑顔が増え、
会話が広がり、
自分から質問をしてくださるようになる。
つまり、ネガティブフェイスだったお客様が、ポジティブフェイスへ変化していくのです。
だからこそ、
「このお客様は話しかけられたくない人だ。」
と決めつけてしまうことも危険なのです。
■最初に必要なのは「ストローク」
では、どのような距離感で接すればよいのでしょうか。
ここで大切になるのが、ホスピタリティです。
ホスピタリティとは、相手の喜びを願い、自ら主体的に行動することです。
その第一歩は、ストロークです。
ストロークとは、相手の心を満たす働きかけのこと。
笑顔を向ける。
目を見て挨拶をする。
軽く会釈をする。
「いらっしゃいませ。」
と温かく声を掛ける。
こうした小さな関わりは、お客様に安心感を与えます。
「このスタッフなら話しかけやすそう。」
「困ったら相談してみよう。」
そんな心理的な土台をつくるのです。
つまり、最初から長い会話をする必要はありません。
まずは、心を満たすストロークを積み重ねること。
そこから、お客様の反応を見て距離を調整していけばいいのです。
■見極めるポイントは「反応」
では、どんな反応を見ればよいのでしょうか。
例えば、ポジティブフェイスのお客様は、
・アイコンタクトが多い
・笑顔を返してくださる
・会話が広がる
・おすすめを聞いてくださる
・こちらの話に興味を示してくださる
こうした反応が見られます。
一方で、ネガティブフェイスのお客様は、
・目を合わせる時間が短い
・必要最低限の返答が多い
・会話を広げようとしない
・商品をじっくり見たい様子がある
・距離を保ちながら店内を見ている
こうした傾向があります。
もちろん、これは絶対ではありません。
だからこそ、一度で決めつけるのではなく、
ストロークを送り、
反応を見て、
距離を調整する。
この繰り返しが大切なのです。
■ホスピタリティとは、相手に合わせて変化すること
「そっとしておく。」
それも立派なホスピタリティです。
しかし、それは最初から何もしないこととは違います。
まずは笑顔で迎え、
目を合わせ、
温かい空気をつくる。
そのうえで、お客様が距離を求めているなら、静かに見守る。
逆に関わりを求めているなら、積極的に寄り添う。
ホスピタリティとは、自分の接客スタイルを押し付けることではありません。
相手をよく見て、その瞬間ごとに最適な距離へと変化していくことです。
本当にお客様のことを思って行動してくれるスタッフに対して、「少しおせっかいだな」と感じることはあっても、
「自分のために動いてくれている」と伝われば、不快に感じる人は決して多くありません。
だからこそ、主体性を持って関わり、お客様の反応を見極めながら距離感を変えていくこと。
それこそが、ホスピタリティある接客の本質なのではないでしょうか。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
AIやセルフサービスが広がる時代だからこそ、お客様との「心地よい距離感」をつくる力は、
人にしか提供できない価値になっています。
ザ・ホスピタリティチームでは、心理学や行動科学のエビデンスをもとに、
「なぜその接客がお客様の心を動かすのか」を理解しながら実践できる接客・接遇力向上ホスピタリティ研修を実施しています。
単なる接客マナーではなく、お客様一人ひとりに合わせた関わり方や、期待を超えるホスピタリティを身につけたい企業様は、
ぜひお気軽にご相談ください。
ホスピタリティですべての働く人に喜びと誇りを。
ザ・ホスピタリティチーム株式会社
ホスピタリティコンサルタント 船坂 光弘
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