ホスピタリティは職場の中から──“裏おもてなし”とギバー文化が顧客を動かす理由

2025.10.24

ホスピタリティは職場の中から──“裏おもてなし”とギバー文化が顧客を動かす理由

マネジメントコラム

■  インナーホスピタリティを育むストローク文化の仕組み化

職場でメンバー同士が自然と安心感を共有し、高い心理的安全性を保つためには、

組織全体で、メンバー同士の「心の栄養を与え合う」ことを仕組み化することが必要です。

 

それには、交流分析ストローク理論の考え方を活かして、

「お互いに感謝を伝えあう。」

「一人ひとりに目を見て、笑顔で挨拶をする。」

「仲間の話しを最後まで目を見てうなずきながら聞く。」

といった相手の心を満たすストロークを組織全体で共有し、このような行動が組織風土になるまで昇華させることが重要です。

 

私がサポートさせていただいた、ある企業の事例を紹介すると、

中途社員が入社し、既存社員との関係がうまくいかずに社内がギスギスしていました。

社内の雰囲気は暗く、メンバーに元気が無く、職場全体が疲弊しているように見えました。

朝の挨拶ひとつとっても、オフィスに入る際にみんなに向かって「おはようございます」と言葉は発しますが、

その声は元気も笑顔もなく、アイコンタクトすらありません。

 

そこで、その様子を見ていた私は、挨拶のストローク度数を上げる為に、「一人ひとりとグータッチをする」というルールを提案しました。

 

最初は照れながらやっていたメンバー達も、これによって必ず相手の目を見て、笑顔で挨拶することから、

どんなに前日に嫌なことがあっても、翌日にはグータッチでお互いの気持ちがリセットでき、笑顔溢れる職場に生まれ変わったのです。

 

実は、こんなことで職場の雰囲気は大きく変わるのです。

 

■職場の温かさが、顧客の心も動かす

この積極的なストロークを職場の風土にすることは、社内だけでなく、対顧客に対しても効果を発揮します。

 

ある店舗では、それまでは入店時に「いらっしゃいませ」をただ義務感で言葉にするだけだったのが、

「一人ひとりの目を見て、笑顔で挨拶ができるようになった」、

「これまで受け身だったところから、スタッフから積極的に話しかけるようになった。」

といった具合に、顧客サービスにも好影響を与えられるようになりました。

 

「おもてなしはうらおもてなし」という言葉があります。

これは、お客様の前だけでおもてなしはできない、「裏」、つまりバックオフィスでも、仲間にもおもてなしができて、

はじめて顧客へのおもてなしができるようなるのです。

 

それが証拠に、これまで私が見てきた成果を残し続けるチームは、

職場内のメンバー同士の「感謝の言葉」や「笑顔」といったストロークで溢れており、

それが顧客にも伝播し、顧客満足度に繋がっています。

 

■与えるたびに満たされる―ギバーの幸福循環

この相手の心の栄養を満たすストロークは、「相手の心に栄養を与えること」がベースとなっています。

組織行動学者アダム・グラントは、人の対人行動をギバー(与える人)、テイカー(奪う人)、マッチャー(バランスを図る人)の三つに分類しました。

 

〇ギバー(与える人)

〈特徴〉

・情報・ノウハウ・時間・支援を惜しみなく提供する。

・相手の成功や成長を自分の喜びと感じる。

 

〈組織への影響〉

ギバーは高い信頼感とチームワークを生み出し、長期的には組織全体の学習速度やイノベーションを加速させます。

 

〇テイカー(奪う人)

〈特徴〉

・自分の得になることだけを優先し、必要なときは他人の時間や情報を自分の利益のために奪い取る。

・「会社がいけない」「あの人がやってくれない」といった他責思考が強く、他者から与えられることを望む。

 

〈組織への影響〉

短期的には成果を上げるケースもあるが、不信感を広げ、チームの協調や心理的安全性を著しく損ないます。

 

〇マッチャー(損得勘定で動く人)

〈特徴〉

・ギブ&テイクのバランスを重視し、「与えたら受け取り、受け取ったら返す」ことを原則とする。

・公平な交換関係を維持しようとするため、信頼関係の土台にはなるが、真の「与える文化」は育ちにくい。

 

〈組織への影響〉

マッチャーは「得か損か」で動くため、必要なときだけ手を貸し、それ以外は助け合いから距離を置きがちです。

その結果、ギバーの善意が職場中に広がらず、組織全体での協力の輪が弱まってしまいます。

この中でも、ギバー、つまり与えることを中心に考える人は、

一見、「与える=消耗する」と思いがちですが、逆に相手からの「感謝」や「喜び」といった精神的報酬をもらえる機会が多いため、

自分自身の喜びやしあわせを実感することが多いのです。

 

したがってメンバーの行動基準が、

「主体的に仲間や顧客の心を満たすギバー」を選択するのか、

「上司や会社から与えられることを主張するテイカー」を選択するのか、

「自分への見返りがあれば動くマッチャー」を選択するのかによって、

組織のパフォーマンスは大きく変わります。

 

したがってストローク文化、つまり相手の心に栄養を「与える」行動を推進することは、

ギバー、「与えるメンバー」を増やすことに繋がり、それがお互いの精神的報酬が増え、心理的安全性の高い職場づくりに大きな効果を発揮します。

 

■心の“満タン”が溢れ出すホスピタリティの秘密

そしてホスピタリティの提供は、自分の「心のコップ」が満たされていて、そこから溢れ出たところに、

相手への優しさや気遣い、思いやり、もてなしの提供があります。

 

したがって、自分の心の栄養が空っぽなのに顧客へのプラスアルファの付加価値提供は困難なのです。

だからこそ、まずは仲間同士の心の栄養を満たし合うストローク文化を社内に醸成し、

顧客サービスまで行き渡らせる組織づくりが求められているのです。

 

先ほどの挨拶時のグータッチを取り入れた企業は、そのポジティブなエネルギーが顧客対応にも波及し、

結果として顧客満足度が大幅に向上したという後日談もあります。

 

難解な戦略を練るよりも、まずは職場を笑顔で満たす─このシンプルな一歩が、最も速く生産性を押し上げる近道なのです。

それには、リーダー自身のストロークを高めることはもちろん大切ですが、

 

組織全体で、

「挨拶のストローク度数を意識する。」

「どんな小さな助けにも必ず感謝を伝える。」

「話し手を否定せず、最後まで耳を傾ける。」

といった職場の行動ルールを定め、仕組みとしてインナーホスピタリティを育む環境をつくることによって、

職場内が笑顔と感謝に溢れ、心理的安全性の向上に繋がり、生産性の最大化に繋がるのです。

 

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